2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

蝉日記。 人間が汚れる前に。三十四!。

「僕は何、、、。」 「お前、悲しい、哀しい、淋しいよ。」僕は言う。 「哀しいのは君に見えるよ、私には。」 「そうだな、もっと哀しいのは僕の方かも。ても、もうやめてくれるよな。」 「私、今まで誰とでもすぐ寝ていて、みんな私とやってる時だけは優し…

蝉日記。 傷だって愛すよ。三十三!。

女の子の部屋に上がり、中を見た時に驚いた。広い部屋が一つある。その他に二つ部屋がある。広い部屋には僕なんかには値段も解らない革張りの椅子が置いてある。応接机みたいなのも。大きな家具や机もある。もう一つの部屋の扉、開き放しになっていてそちら…

蝉日記。 再会した二人。三十二!。

女の子が一人暮らしをしていると言うその部屋は隣町にあった。僕らの街よりも人口も多く遊ぶ所だってたくさんある。小さいけれど歓楽街だってある。そんな街の駅前の便利な場所に女の子の部屋はあった。新築の部屋だった。 僕は真夜中の道をそこまで単車で走…

蝉日記。 その哀しさは届いたよ。三十一!。

心が涙を流そうとしている。女の子の言葉にも何を答えて良いのか解らない。泣き声で、あふれる様に話してきた女の子。きっと、今まで何年も誰にも言えなかった事を一気に叫んだんだ。 そして女の子は続けた。「あの日ね、あの駐車場で君を見た時、私はすぐに…

蝉日記。 踏みつけられた人達の声。三十!。

「卒業式の少し前、それまでよりいじめが酷くなってきたの。その日もいじめられてた。殴られたり蹴られたりだけなら、まだ良い方で、その日はみんなの前で裸にもされた。恥ずかしくて本当に泣けたよ。でも、あそこにほうきの棒、入れられるとまでは思って無…

蝉日記。 人間、性善説性悪説。二十九!。

起こされたのは自分の携帯電話の呼び出し音だった。女の子からだ、きっと。期待しながら電話をとる。そう信じてた。 「電話くれたんだね。ごめんね、仕事行ってたの。今、終わって帰って来たところ。留守番電話で嬉しくなってかけたの。」女の子からだった。…

蝉日記。 人間の優しさと狂気。二十八!。

僕が、たった一つだけ覚えてて大切にしてたこの先生の言葉さえ無力だよ。人間がいる所はどこだっていじめがあるものなのか。女の子の事想うと、先生、どんな言葉も空回りする。痛い。 強くも、優しくもなれずに、ただいじめられるままに、されるがままに泣い…

蝉日記。 その思い出で生きていける。二十七!。

僕は小学校の卒業写真、中学校の卒業写真、引っ張り出して見る。全てを、真剣に見る。探してく。七つの学級が中学校にはあった。一人一人の顔を見つめていく。それでも解らないし思い出せない。 中学校の時の不良仲間に電話してみた。女の子の名前を言ってみ…

蝉日記。 その思い出は痛くても愛しい。二十六!。

「逆もあるよね。男の人だって、もし自分が会社とかくびになってやめさせられたり、落ちぶれたりお金も無くなったり、住む家も無い貧乏になったり、事故で顔、醜くなったり、片足とか無くなっても昨日までと同じ様に'好き'って言ってくれるのか、今までと同…

蝉日記。 その出会いを想う時。二十五!。

僕の携帯電話に見たことも無い電話番号が入ったのは、真夜中二時過ぎだった。写し出された番号を見れば相手も携帯電話からかけているのが解る。 こんな夜中に電話をかけてくるのは盗みの仲間とか、不良仲間か、どうせまともな部類の知り合いではないって解っ…

蝉日記。 想えばそれは予定された雨だった。二十四!。

僕は頑張って、勇気も出して女の子の家の呼鈴を押した。女の子に会いにやって来たのに、会って話しもして、自分の気持ちもはっきりさせて、想いも気持ちも伝えたくてやってきたのに、何故か、今、誰も居ませんようにって願いながら呼鈴を押している。矛盾し…

蝉日記。 痛みも傷も知って。二十三!。

同じ街のこんな近くに、近所に、こんな女の子が居たなんて不思議に思う。こんな近くに年齢も近いこんな女の子が居たなんて知らなかった。 よく考えたらさっきも思ったけどこの団地に住んでるって事は僕と同じ小学校、中学校なんだ。でも見覚え無いな、どこか…

蝉日記。 人間の醜い所も汚さも。二十二!。

僕は知りたいと思った。女の子のこと全部知りたいと。もしかしたら、多くの男と寝てきた女の子のこと、知ってしまえば、全てを知ってしまえば、痛い、苦しさ、辛さが、嫉妬で狂ってしまったり、女の子を傷つけたり僕も傷ついたりしてしまう怖さはあったけど…

蝉日記。 傷だらけでも走れ!二十一!。

家で寝ている日が多くなる。部屋の中に閉じこもっている時間ばかりになっていく。必要な時にさえ外に出ない。抜け殻。 親はそんな僕を逆に喜んでいた。仕事もしないで部屋に閉じこもり引きこもりなのに、その方が盗みや犯罪、薬物もやらないし悪い仲間と付き…

蝉日記。 傷だらけの君。二十!。

僕だって昔、この場所が大好きで、この場所を暖かいと感じ、その暖かさに抱かれていた。だけど今、何かが違う。今、一年経って、少年院を出て初めてこの駐車場に来た時、懐かしいのに、その昔感じられたあの暖かさが感じられない。その空気が煩わしく、その…

蝉日記。 君の声も涙も届くよ!十九!。

女の子の事を時に、逆に、あんな誰とでも寝る女、何十人ともやってきた女が本当に気になるのか、好きな訳ないではないか、忘れろ、忘れろって自分に言い聞かせたりもする。男って狡いかな。そう、本当に狡い生き物だ。 好きな事をしていない約一年はすごく長…

蝉日記。 人間は本当は優しいはずだった。十ハ!。

少年院の官に言われる聞き飽きた言葉も、味の無い生命を繋ぐだけの食事も、他の少年達との対人関係も、その人間の醜さも、農場での作業も、厳しい強制運動も、身を切る冬の寒さにも、夏の暑さにも、全部に、潰されないように頑張った。 でも本当の意味で辛い…

蝉日記。 弱い人にも届け声!十七。

でも、この時調査官に投げつけた僕の言葉は、反抗心もあったけれど、本当は'救ってほしい'って気持ちの裏返しだった様に現在は想える。 そう、僕も救ってほしかったんだ。救ってほしい一人だったんだ。本音の声だったかもしれない。 そして、この時本当は調…

蝉日記。 頑張ってる人に届け声!十六。

「もしね、小学生くらいから人生やり直せるなら、こう言う事考えるの自体が後悔してる人生って事だけど、僕はもし、やり直せるならもう、中学校に入っても不良になんてならないで、これは嘘でなく本心で、冗談でも無い、一生懸命勉強してさ、高校行って大学…

蝉日記。  太陽も月も。十五!。

「君なんか、まだ若い、十六歳だろ。十分に人生をやり直せる。大人になって悪い事をして五十歳や六十歳になって刑務所に何度も入っている人達の中にもほんの僅かだがやり直そうとしている人達がいる。人生は五十歳からでも六十歳からでも'遅い'なんて事は絶…

蝉日記。  十四。人間な想え!。

同じ集団部屋に入れられていた一人の少年は、 「強姦するのが一番楽しい。」 そう言っていた。その時は'気狂いか、こいつ。'くらいにしか思わなかったけれど、現在、女の子の過去を知った後で強く想った事がある。検事も裁判官も認めない、ただの犯罪者の言…

蝉日記。  続き十三!。

今まで、何とも思わなかった事が全て愛おしく思える。思えてくる。数日前までは外に居たはずなのに、すごく遠い、縁の無い世界で自分と関係を無くされた世界の様に思える。すごく懐かしい気持ちになる。 外の空気、外の仲間、外の食べ物、ごはん、外にあるは…

蝉日記。  続き十二!。

警察署の中の留置場の少年房は僕一人だけで、狭い壁と鉄格子だけの箱の中で、気持ちはとても痛くなった。それまでに自由って意識した事無かったのに、自由を強く強く意識した。痛くて心が本当に折れそうだった。 でも僕は、ここで、一人だけの壁と鉄格子の独…

蝉日記。  続き十一!。

「今日、私とやったのは私を減らしに来たの、君の言い方だと。それに女は減るけど男は減らないの、さっき私とやっといて私を磨り減らしたのに私に減るとか説教するのそれ、一体何なの。ただやりたいだけで今日、私と寝た君も今までの男達も金で女買う大人も…

蝉日記。  続き十!。

あと、汚れた自分が女の子の気を損ねて女の子と寝られなくなったら嫌だって言ってるのも少しあった。女の子は謝り続けてると、 「私はどうでも良いの。でもお母さんの事は悪く言われたくない。たとえ世の中や社会に私がどう写ってようとそんな私に優しい大好…

蝉日記。  続き九!。

真黒な空に月と星だけが光り輝いている。真黒な駐車場には自動販売機の人工的な光が女の子を浮かび上がらせていた。何もかも無意味な気分に、今なら現在なら思える。 「別に良いよ。でも君の部屋行かなくても私の家でも良いし。今、親いないから。」 そう言…

蝉日記。  続きハ!。

物や道具に想うのも想わられるのも嫌いで、人間は物や道具じゃないって反発してたのに、そして、それは男と女の意味でも同じはずなのに、僕も簡単に自分の欲望や都合で他人を物や道具と扱ってしまう、見てしまう、どうしてだろう。 やはり、人間は自分の都合…

蝉日記。  続き七!。

地面に座り込んで、ここが自分の居場所、居ても良い場所を感じてた。 その僕らの少し離れた所に女の子がいた。誰が連れてきたのかは解らないけれど、この駐車場で初めて見る顔で僕ら常連組にはいつもは見かけない女の子だから目についた。別にそんなに綺麗で…