蝉日記。  続き十二!。

警察署の中の留置場の少年房は僕一人だけで、狭い壁と鉄格子だけの箱の中で、気持ちはとても痛くなった。それまでに自由って意識した事無かったのに、自由を強く強く意識した。痛くて心が本当に折れそうだった。

 でも僕は、ここで、一人だけの壁と鉄格子の独居房に初めて入れられて、生まれて初めて過去と言うものを振り返った。十七年に満たない、たった十六年と少しの月日だけれど、時間だけれど、自分だけの歴史を、道を、歩いて来た時間を初めて振り返った。考えた。想った。思い出してみた。

 誰にも愛されていないと叫んでる振りをしてたくさんのみんなに甘えていた自分。

 誰にも理解されていないと怒っている振りをして、自分こそ、何も理解していなかった自分。

 不良達は、何で不良なんだろう。どうしてそうなったんだろう、自分も含めて。

 一人一人歩いて来た道も時間も環境も違うから、理由も原因も、言い分だって違うと思う。

 でも、'駄目だ'って言われるやつ、寂しくて、誰かの声が聞こえてないと不安で、だから甘えて、つるんで、群れを成して、そしてみんなで馴れ合っていきたいんだ。やらなくてもよい、必要のない犯罪とかもして。

 こんな平成の豊かな世代に生まれて、生きていて、何でこんなにも乾いた気持ちになるんだろう。いや、真実は乾いた気持ちになんかなっていないのに、それが現代では格好良く見えるから、乾いた気持ちになった振りをしているのかな。

 でも、もしかしたら本当にすごく弱くなっていて、少しの事で乾いた気持ちになってしまう心の、精神力の弱さなのかもしれない。そう言う自分を感じたいって。

 後悔しない人生ってどこにあるのかな。誰か、後悔しないやつって本当にいるのかな、今まで見た事ないよ。

 僕は後悔を、生まれて初めて刻み込まれた気がする。この鉄格子の中で。

 初めて掛けられた手錠。壁と鉄格子に囲まれたこの独居房。時間さえ止まっている気がする。取り調べ室の重い雰囲気。犬でも見る様な警察官達の僕を見る目。何を話しても嘘としかとらない検察官。本当はお前らの方が犬のくせに。

 そして何よりこれからどうなっていくのかと言う不安。全ての時間が暗闇のまま止まっている様な気になる。

 弱いね。もっと自分は強いと思ってた。信じてた。でも、こんな事で心が折れる。強がっても十六歳。潰れてしまいそうだよ。