蝉日記。  十四。人間な想え!。

同じ集団部屋に入れられていた一人の少年は、

 「強姦するのが一番楽しい。」

 そう言っていた。その時は'気狂いか、こいつ。'くらいにしか思わなかったけれど、現在、女の子の過去を知った後で強く想った事がある。検事も裁判官も認めない、ただの犯罪者の言い訳、理屈って言われるかもしれないけど、犯罪は同じ犯罪でも範囲があって、法の範囲にだけ触れる犯罪と、法の範囲を超え、人の範囲にまで触れてしまう犯罪があると。

 いじめ、強姦、やられた方は死ぬまで、本当に一生涯、その痛みも傷も忘れる事ができないと思う。深い傷が刻まれる。残る。時間が痛みや傷を薄くしてくれることはあっても忘れはできない。

 盗んだ、薬やったとかの犯罪とは違う。 

 お前も人間の皮被っているなら、少しは想えよ。

 

 家庭裁判所の調査官が来た。面会すると言う。五十歳に近いと思われる男だった。この調査官が少年達を調査すると言う。僕を調査すると言う。

 約一か月くらいの鑑別所の生活の中で二回か三回会って一時間ずつくらいの話しただけで、その少年達の事も、僕の事も全て解ってしまうと言う。

 そして調査官の面接、意見が家庭裁判所の裁判官の審判に大きく響く。

 だから、少年達はみんな演技をする。嘘をつく。一生懸命、涙を流したふりをして更生したふりをする。

 言葉を並べる。自分の大切な人生の中の未来、全部、他人に決めてもらうふりをする。

 狭い部屋の中で調査官は僕に言う。先生や親、学校で、教室で、家庭で何度も何度も言われてきた事と同じ事を言う。その言葉ならもう、何度も聞いてきた。だけど、その言葉を聞かされても、時には親が泣き叫んで止めるのを振り切ってでも薬に狂い、盗んで、殴って、暴力を信じて犯罪を続けた。

 そこまで腐ってる僕に何の意味がある言葉なんだろうって思ったりした。

 言葉は無力な時がある。どんな声も、正しい声さえも、聞く事のできない状態にある者、聞く耳の無い者には届きはしない。