蝉日記。  続き十三!。

今まで、何とも思わなかった事が全て愛おしく思える。思えてくる。数日前までは外に居たはずなのに、すごく遠い、縁の無い世界で自分と関係を無くされた世界の様に思える。すごく懐かしい気持ちになる。

 外の空気、外の仲間、外の食べ物、ごはん、外にあるはずの僕の単車。外の時間、外の自由に歩く事のできる街、外の、外の、外の全てが愛しくなってきた。

 そして生まれて初めて本当の意味で一人ぼっちになった気がした。現在の自分、寂しくてたまらない。

 女の子のことも思い出した。数日前に一回抱いただけのあの女の子のことをすごく愛しい気がした。

 でも、それは弱っている自分が思わせるだけのもので、僕の中の卑怯者の声。ずるいよね、自分が弱ると、辛いと、寂しくなると思い出にしがみつき逃げるし、一番最近に抱いた女を愛とすり替えて誤魔化そうとする。これは愛とは違う。僕は自分にそう、言い訳してた。

 でも人間は辛い時も、潰れそうな時も、思い出と希望があったから生きてこれたってのが本当だって解った。

 この女の子への気持ちは愛なんかじゃ無い。まやかしなんだ、ただ逮捕された衝撃と留置場の寂しさで外で一番最後に抱いたあの女の子が、女の子のことが、強く出てくるだけで愛情なんかじゃ無い。まやかしなんだ。僕があんな、誰とでも寝る女、この街の不良のほとんどと寝た女、好きになる訳がない。そんなはずない。そうやって強く自分に言い聞かせる。何度も何度も何度も強く否定する。でもやはり女の子のこと思い出す。想ってしまう。留置場の中、つい女の子のこと考えてる。女の子のことが気になる。忘れられない。忘れられなかった。寂しいって、好きって、愛ってもしかしたら、これなのか。こう言う事だったのかな。

 

 鑑別所は退屈だった。たるい毎日だった。僕の警察署の留置場に二十二日間居た後、家庭裁判所に連れて行かれ、審判とかをやって少年鑑別所に入れられた。

 鑑別所では最初、似たような少年ばかり五人くらいいる集団部屋に入れられたけど、煩しくて独居房に変えてもらった。人間関係から逃げてやった。自分と同じ様な少年達とあわせているのが、今は、現在は、面倒臭くて、煩わしくて、見栄や虚勢の張り合いも、僕にだって、そう言うの、そう言う気持ちあるけど、現在はする気持ちになれなかった。