蝉日記。  続き九!。

真黒な空に月と星だけが光り輝いている。真黒な駐車場には自動販売機の人工的な光が女の子を浮かび上がらせていた。何もかも無意味な気分に、今なら現在なら思える。

 「別に良いよ。でも君の部屋行かなくても私の家でも良いし。今、親いないから。」

 そう言った女の子の言葉に、僕の家は親がいる、なら親のいない女の子の家だと計算して女の子を僕の単車の後ろに乗せて走り出した。

 女の子の家は平均的な団地の五階にある一室だった。単車を団地の駐車場に入れ女の子の部屋に向かって歩く。途中、聞いてみる。

 「本当に親いないの。」

 「安心して良いよ。お父さんは去年死んじゃったし、お母さんは仕事。」

 他人事でも話すかの様に静かに女の子は言った。僕は「こんな時間に母親、仲間の仕事してんの、どっか男と泊まって遊んでんじゃないの。」

 調子に乗って冗談のつもりもあったんだけどふざけて言ってしまった。

 強く、強く、強く

 「私の事どれだけ悪く言ってもかまわないけどお母さんの事までそんな言い方しないで。夜勤で働いているだけなのに。そんな事言うなら帰って。私は自分のしてる事解ってる、でもお母さんまで一緒の様な言い方しないで。私は誰とでも寝てるよ。でも親の事までそんな言い方されたくない。」

 女の子は激しく言った。心無い事、言ってしまった自分に気づく。恥じる。人は誰でも触れられたく無い部分、踏み躙られたく無いもの、大切なものを持っている。

 女の子の中の触れてはいけない部分、聖域に土足で踏み込んでしまった自分に気づく。

 「ごめん、ごめんね、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。本当にごめんね。」

 必死に謝る。軽い気持ちで言ってしまった言葉とか小さな噂がどれだけ人を傷つけてしまうか僕は知っていたつもりだったから。

 でもそんな人の痛みを本当は考えていなかったから、言ってしまった言葉。殴るとか蹴るとかも暴力だけど、そう言うのだけが暴力では無いってよく言うけど、それって本当だから。