蝉日記。 痛みも傷も知って。二十三!。

同じ街のこんな近くに、近所に、こんな女の子が居たなんて不思議に思う。こんな近くに年齢も近いこんな女の子が居たなんて知らなかった。 

 よく考えたらさっきも思ったけどこの団地に住んでるって事は僕と同じ小学校、中学校なんだ。でも見覚え無いな、どこかで会ったことあるのかな、女の子の年齢はいくつなんだろう、僕と同い年くらいには見えるけど、中学校とかでは見たこと無いな。卒業してからこの街に引っ越してきたんだろうか。今日、女の子いるかな、居ても僕のこと覚えているかな。もしかしたら、たった一回、一年少し前に寝ただけの僕の事なんて忘れてるかもしれない。

 女の子、僕とあの日寝てから、あれから何人の男と寝たんだろう。あれから僕は逮捕されたけど、僕が鉄格子に入ってた一年半くらいの間にも、同じ様に何人、何十人の男と寝てしまったのかな。それを考えると切ない、胸が痛い、頭にもくる。

 だけど女の子の彼氏でも何でも無い僕には、それをどうする事も責める事も怒る事もできない。止める権利も無い。そんな気がした。

 そんなことなどを頭の中で、言い訳の様に考えながら歩いていると、すぐに女の子の家の団地の前に着いてしまう。一年半前、逮捕される二日前に女の子と寝た団地の前に立ち尽くして、やはり、帰ろうか、会ってはいけないかも、なんて弱気も一瞬だけ、瞬間だけ想ったりもした。

 女の子の母親がいたら何て言おう、こんな平日の朝から来て、しかも女の子を訪ねて行って'この子、仕事してないのか、学校行ってないのか'とか疑われるの嫌だな。

 それに女の子は僕のこと覚えてないかもしれない。そんな同じ事を、何度も何度も何度も繰り返し考えてしまって、なかなか女の子の家の前までの少しの階段と距離がすごく時間がかかる。でも、いつまでも団地の前、家の前で立ち尽くしていても意味が無い。仕方がない。それにこの、ためらいと気持ちを乗り越えなければ女の子に会う事はできない。それに、もし、今、このまま女の子に会わずに帰ってしまったなら、引き返してしまったならきっと後悔するだろうな、何年後かに、僕は今の、現在の僕を恨むだろうな。

 もし、何もしないで帰ってしまったら、未来の僕は、現在の弱虫な自分を絶対に恨むだろうな。

 十七歳の今まで、たくさんの小さな後悔をしてきた。でも、今日だけは、その後悔をしたくはなかった。