蝉日記。 傷だらけでも走れ!二十一!。

家で寝ている日が多くなる。部屋の中に閉じこもっている時間ばかりになっていく。必要な時にさえ外に出ない。抜け殻。

 親はそんな僕を逆に喜んでいた。仕事もしないで部屋に閉じこもり引きこもりなのに、その方が盗みや犯罪、薬物もやらないし悪い仲間と付き合わないで良いと思っているみたいだ。

 僕は無気力だった。何もする気が起こらない。大好きだったあの駐車場を裏切ったせいか。

 あの駐車場にさようならを誓ったあの日からあの駐車場に場違いを感じて、それは、裏社会を、もう、自分の住むところではないと無意識に思い始めていた様で、でも、それが空虚で何もする気が起きない。あの日から、決別の日から、無気力な自分がいた。昔の仲間ともたるくなってしまってもう、連絡も付き合いも少なくなっていってしまって、でも、かと言ってまじめに仕事する気にもなれず、高校にも入っていない、入れなかった中学校卒業の少年院出の無力な小さな存在にできる事は、ただ、部屋の中で寝ているだけだった。

 時間だけは持て余す程あったので色んなこと考えたりした。あの女の子のこともやはり思い出した。考えた。やはり気になっていた。心に残っていた。

 僕はあの女の子の家は知っている。身体も一回だけだけど知っている。さぼてんが好きな事だって知っているし、父親は死んでいて母親しかいないことだって知っている。

 だけど、他は何も知らない。それだけしか知っていない。よく考えてみれば、年齢だって知らないし、学生なのか、仕事してるのか、無職なのかさえも知らない。

 初めての男は当然知らないにしても、なぜこの街のどんな男とでも寝ているのか、何人、何十人の男と寝たのが、どうしてなのかも知らない。

 どうしてそんな事してるのか、どうしてそんな女の子になってしまっているのか何も知らない。考えかたも、しぐさも、女の子だけの想いや、想ってること、こだわり、あの女の子だけの言葉とか何も知らない。解らない。

 一回は一度は身体を重ねたのに、交わしたのに、こんなにも知らない事の方が多過ぎて、現代っ子、平成の子供、世代なんだって自分らのこと悲し笑い、笑えてきた。

 薄い、軽い紙の様な人間関係ばかりだよね。熱も厚みも、何も無い。

 部屋の中、寝ころんで女の子のこと想う。どうしてこんな気持ちになるんだろう。

 そして、これは少年院の中にいた頃から繰り返していた疑問だ。逮捕された日から繰り返している気持ちだ。もう、いいかげん、この気持ちに、はっきりさせたいって思った。

 でも僕は解っている。本当は解っている。自分の事なんだから、やはり自分が一番よく知っている。ただきっかけを探しているだけだ。

 少年院の中に居た頃から少しずつだけど気づいていた。やはり僕は、女の子のこと、好きなんだ、と。