蝉日記。 傷だらけの君。二十!。

僕だって昔、この場所が大好きで、この場所を暖かいと感じ、その暖かさに抱かれていた。だけど今、何かが違う。今、一年経って、少年院を出て初めてこの駐車場に来た時、懐かしいのに、その昔感じられたあの暖かさが感じられない。その空気が煩わしく、その空間が虚しくさえ思えた。何か違う気がした。

 馴れ合いは、もう、駄目なんだ。息苦しくて吐き気がした。僕は、もう、この駐車場には来てはいけない人種になってしまったのかな。僕は少年院に入っている一年で、昔、自分が嫌っていた人種になってしまったのかな。人は自分が気がつかないうちに変わってしまっているのかな。だからあれだけ好きだったこの場所を息苦しく感じてしまうのかな。この駐車場が近くに感じられない。今、この駐車場に立って皆を見ているのに、近くに感じられない。昔のような一体感が全く無い。だってすごく遠く感じる。

 小学生の頃、遠く、夜空に光り輝く星たちも、近づいてみれば、ただの土の塊だってそれを知って、悲しくなった事がある。

 僕は知らなくて良い事を知り、感じなかった方が良かったことを、知らない方が感じない方が幸せとは言わないけど、少なくとも楽しかったはずの事を、少年院に居る間に知る人種になってしまったのかな。

 見渡せば駐車場の地面に座り込んで、皆、自分の事を一生懸命に話してる。この駐車場の仲間しか聴いてくれない、親にも家族にも、当然先生になんか話せない、聞いてもらえない声を一生懸命話してる。そう、自分を受けとめてほしくて。

 教室ではじかれて、中学校で落ちこぼれて職場でも駄目って言われて、世の中や社会にも背を向けて相手にされず、甘えても、頼っても、救いを求めても相手にされず、その声は無視され続けて、自分の話しなんて誰にも聞いてもらえない、存在さえ薄くて、でも、そんなやつでもこの駐車場にこれば、自分と似たようなやつらが居て誰かが自分の話しを聞いてくれる。声を聞いてくれる。

 無視されない、居ても良い、ここに来れば寂しくない、ここに来れば仲間がいる。

 冬だって寒くない、夏だって涼しいと感じられるよ、無敵に思える。

 明日の事も、将来の事も、学校とか仕事とか何も考えず、薬物に浸かっていれば気持ち良く楽しい時間だけが過ぎていく。

 駐車場の片隅に置いてある自動販売機の人工的な光に集まる昆虫のようにこの街の不良達が集まってくる。

 僕だって、仲間だと思った。皆がいるこの駐車場の前でこうやって佇んでいると、やはり全てが懐かしく思える。この場所が好きだった。一瞬ではない、この場所をずっと暖かいと思った。愛しさに似たものを感じていた。

 だけど、全ては過去形だった。全ての感情が、過去はそう感じたというものになっている。今は息苦しさを感じてしまう。違う気がする。

 馴れ合いも傷を舐め合うのも、もう、見ていられない。もう、できない。僕は大人になっていくのは、こうして一つ一つの思い出達にさようならを言っていく事なんだと気づいた。残酷だけど。

 もう、この駐車場には来ないだろうな。もう来れない。

 街は何も変わっていないのに、僕の方は変わってしまっている、はっきりと。自分自身にも吐き気がするけど、吐いてしまえば楽だけど、吐いてしまうのは許されない。馬鹿になって走れ。

 仲間達、皆、さようなら、ごめんな。