蝉日記。 その出会いを想う時。二十五!。

僕の携帯電話に見たことも無い電話番号が入ったのは、真夜中二時過ぎだった。写し出された番号を見れば相手も携帯電話からかけているのが解る。

 こんな夜中に電話をかけてくるのは盗みの仲間とか、不良仲間か、どうせまともな部類の知り合いではないって解っていたけど、でも僕みたいな人間の電話に電話をかけてくれる人がいるってだけで、誰か僕と話しがしたいってやつがこの世に一人でもいるって想うだけで、なんか、嬉しい。

 今日の朝、女の子の家行って会えなかった気落ちがこんな弱い考え方をさせるのかもしれないけど。でも、不良少年達の結びつきってこんな感情どうしかも知れない。

 そんな真夜中の二時だったけど僕だって眠っていた訳ではなくて、部屋で一人雑誌を見たり、好きな初期の椎名林檎の歌、聴いたりしてただけで暇な時だったからその見知らぬ電話番号に'誰からの電話だろう'って悪友を一人一人思いうかべながら電話に出た。

 「はい、誰。」僕が言うと、

 「誰、じゃないよ、私だよ。」そう、いたずらっぽく答えてくる声。

 僕はすぐにわかった。一瞬で解ったよ。すぐに気がついた。本当に嬉しかった。電話が、女の子からの連絡があるとは思っていなかった。諦めかけていた。

 「電話かけてくれたの、僕のこと解る、覚えてくれてた、もう、忘れてるかと思ってた。」

 一気に言葉が出る。女の子は、

 「君こそ、私の事覚えててくれたんだね、私、もう、数、わかんないくらいの男と寝たけど一年半も経ってから私の家まで来てくれたのは初めてだよ。私の事覚えててくれたの君が初めて。なんか嬉しいよ。少年院っての入ってたんでしょう、噂で聞いたよ。この一年半。出て、すぐ私の事思い出してくれたんだ、なんてね、そんな訳無いか。」

 て返してくれた。僕は'数、わかんないくらいの男と寝た'とか、聞きたくないよ、そんな言葉いきなり言うなよって思いながらも、それは飲み込んで我慢した。

 そして不思議に思って聞いた。「何で僕が少年院に入ってたって知ってるの、誰かに聞いた。

 「街で、風の噂に聞いたの。」女の子はそう答えた。僕は、「僕の名前、覚えててくれたの、僕のこと忘れてなかった。」また同じ事聞いてしまう。でも、何度も何度でもきいてみたかった。

 「私ね、君と一年半前あの駐車場で会った日より、ずっとずっと前から君のこと知ってたよ。名前も顔も。君は私のことなんて知らなかったけれど。確かに私、見知らぬ男とも、誰とでも寝てきた女だけど、君とあの日寝たのは、君のこと、ずっと昔から知っていたし君ってこの街の不良の中で有名人だったし、、、。とにかく私は昔から君のことも名前も知っていたよ。」

 僕は、そう女の子に言われてもまだ解らなくて、だから聞き返した。「僕とあの日より前に一回でも会ったことあるの。」

 女の子は明るい声で答えてくれる。「あるよ、何回もあるんだよ。話したりとかは無かったけど、何回もあるんだよ。   まだ、私の事解らない、あの日、私の名前聞いても気づかなかったもんね。その他多勢だったし、私。でも、気づけなくても良いよ。気づかない方が良い。気づいたら君も私と話しもしてくれなくなっちゃうから。」

 明るく答えてくれてたはずの声が沈んでいく。

 「どこで会ったことあるの、ごめん、ごめんね、本当に思い出せないんだ。教えてよ。」

 僕は自分が気になっている女の子がずっと前から僕と会っていたなんてどうしても思えなかった。解らなかった。

 「あのね、私、思うんだけど、、、。」と前おきしてから女の子は言った。

 「もし、私に、彼氏とかがいて、その人は毎日いつでも私の事、愛してるって言ってくれてる。抱いてくれる。でも、もし、私が今日、交通事故にでもあって顔も体も全部、火傷で汚くなったりしても、それとか、下半身不随にでもなって、一生、男と寝られない、やれない身体になったとしても、そうなった時でも、その人は昨日までと同じ様に私に'愛してる'って言ってくれるのかな。愛してくれるのかな。醜くなっても、火傷とかで醜くなったり、やれない身体になっても。」

 女の子は僕を強く見つめて、さらに言う。

 「それとか、その彼氏の知らない過去が女の子の方にはあって、それを知った時、その彼氏は手を返したように居なくなっちゃうとか。昔の事なのに、、、。」

 女の子は僕を強く見つめてさらに言う。