蝉日記。 その思い出で生きていける。二十七!。

僕は小学校の卒業写真、中学校の卒業写真、引っ張り出して見る。全てを、真剣に見る。探してく。七つの学級が中学校にはあった。一人一人の顔を見つめていく。それでも解らないし思い出せない。

 中学校の時の不良仲間に電話してみた。女の子の名前を言ってみた。そいつは、「知ってるよ、その女。誰とでもすぐ寝る女だぞ。俺もやったことあるよ。何でお前、あんな女の事聞いてくるの、わかった、噂を聞いてお前もやりたくなったんだろ、そうだろ。」

  笑いながら言ってくる。

 後悔した。こんなやつに聞くんじゃなかった。聞きたくない事まで、また、聞こえてくる。'俺もやった'とか言った時、殴ってやりたかった。何も言えないでしばらく無言でいたら、被せるようにまた言ってくる。「そうだろ、あの女、すぐやらせてくれるもんな。顔はそんなに良くないけど遊ぶにはちょうど良いもんな。」もう、それ以上聞いてられない、聞きたくない。「うるせえ、それ以上言うな。喧嘩売ってんのか。」僕は怒鳴っていた。「何、なに怒ってるんだよ。怒ってんなら謝るけど、お前、あの女と何か関係あるの。」街の不良達は知っている。僕が頭にきたら手がつけられない事を。こいつも僕が怒鳴るとすぐに態度を変え媚びてきた。でも、今はそんな事どうでも良い。女の子の事が知りたい。「関係あろうと無かろうとお前に関係無いだろ。聞いてるのはそんな事ではなくて、あの女の子の小学校か中学校がどこか知っているかって事だよ。」僕は怒りを少しだけ抑えて聞いた。「何、言ってんだよ、俺達と同じ中学校だよ。たしか小学校もお前は一緒のはずだよ。同い年だしつまり同級生だよ。お前は学校で一番の不良だったし、あの女は学校で一番のいじめられてた女だからまるで逆だけどな。だから接点ないから正反対だからお前は知らなくても無理ないか。当然かもな。」

 信じられない気がした。女の子の小学校か中学校が解れば、女の子の言ってた事が解ると、何か思い出すと思って聞いたのに、まさか、同じ中学校で同級生だったなんて。さっき、あれ程卒業写真見ても何も気ずけ無かったのに。

 僕は聞き返した。「学校で一番のいじめられっ子って何だよ。」

 「お前、覚えてないか、卒業式の少し前にさ、中途半端に不良の真似してた女達いただろ。あいつらがずっとあの女いじめてて、最後に、みんなの前で裸にしてさ、卒業式近くて、もう、いじめの方もひどくなってきてて、、、。」そこまで言われて少しずつ、やっと思い出す。あのいじめられていた女の子を。昔の仲間は続ける。「そして、あの女のあそこにほうきの棒をさ、、、。」

 「言うなっ。」その先は言わせたくなかったし、聞きたくなかった。僕ははっきりと思い出していた。耐えきれなくなって電話を思いきり壁に叩きつけていた。僕の中では、まだ、あの小学校、中学校と同級生にいつもいつもいつも、いじめられて泣いてばかりいた少女と、自分が好きになりかけているあの女の子が重ならない。だけど現実はあのいじめられてた女の子なんだ。しかも僕と同級生。

 思えば僕が、ずっと見て見ぬふりをしてきた女の子だった。教師も学校中も、みんなが見て見ぬふりをしてきた女の子だった。誰一人、助ける手を差し伸べなかった女の子だった。中学校に入ってから学校で一番の不良を気取っていた。中学校の時は、だから、助けようと思えば、救うと思えば、そうできる権力って言うか、力を持っていたのに、自分に関係無いから、自分の痛みでは無いから、自分の悲しみでも無いから、他人の事だからどんなに泣いてようと見て見ぬふりをしてきた女の子だった。

 卒業写真を、もう一度めくってみる。さっきは気ずけなくて見つけれなかった女の子を今度は見つけることができる。団体写真の中で女の子は、学級のみんなと一緒には写ってはいない。並んで写ってはいない。写真の片隅に一人だけ別枠で顔だけが写っていた。

 卒業式の少し前、あの事があってから学校と縁を切ってしまった女の子。僕みたいな不良が言えることでは無いけど、言う権利も無いけど、十五歳の女の子がどうしてあんな悲しいめに遭わなくてはいけないんだろう。

 小学校の教室で僕の好きだった先生は、

 「あなたはいじめられた時、相手を憎いと思いましたか、それとも、怖いと思いましたか、、、。憎いと思ったんなら強くなれる、怖いと思ったんなら優しくなれるから、、、。だから負けてしまうだけはしないで。」そう言っていた。

 今は、この言葉さえ寒い。