蝉日記。 人間、性善説性悪説。二十九!。

起こされたのは自分の携帯電話の呼び出し音だった。女の子からだ、きっと。期待しながら電話をとる。そう信じてた。

 「電話くれたんだね。ごめんね、仕事行ってたの。今、終わって帰って来たところ。留守番電話で嬉しくなってかけたの。」女の子からだった。やはりそうだった。僕の方が嬉しかった。

 時計を見る。夜中の二時少し過ぎだった。けっこう眠ってた。

  「この前電話くれたのも、夜中の二時頃だったね、何の仕事してるの。」

 僕は少し心に引っかかっていた疑問を聞いてみる。」

 「内緒。何の仕事でも良いでしょ。それより電話くれたって事は私の事解ったんだね。」

 僕はそう言われてどう答えようか迷ったけど、答えてしまう。「うん、解ったんだ。」だけどそれ以上は言葉になり難い。女の子の傷にふれる勇気は無い。それは汚れてなんかいない傷だけど、女の子自身には、深い、深い傷に違いない。

 でも僕の方が言葉にならないのに女の子は言ってくる。

 「そう。私の事解ったんだ、解った上で電話くれてありがとうね。そうだよ、小学校も中学校も同級生だったんだよ。そして、みんなに汚いとか犬とか言われて、殴られて、蹴られて、いっつも泣いてた女の子だよ。それに、多分、、、知ってるよね。中学校の卒業式の少し前、、、。」

  「やめろよっ。」女の子の言葉、さえぎる様に怒鳴る。僕は聞きたくない事からすぐに逃げてしまう弱い人間だ。「もう聞きたくないよ。」

 僕が言うと同時に女の子も言ってくる。

 「私だってどうでも良い人間にこんな事言いたくないよ。言わないよ。」一瞬、黙り込む。そして強い声で言った。

 「でも君は聞いてよ。君には聞いてほしいよ。だって今まで私と、ただ寝るだけの男はたくさんいたけど、私の事、気にかけてくれたのは君が初めてだから、、、。そんなやついなかったし全て解った上で電話くれた君は聞いてよ、聞いてほしいよ。」

 僕は、声が出せない。ただ、一言だけ、「うん。」と言うのが、一回だけ言うのが全力だった。