蝉日記。 踏みつけられた人達の声。三十!。

 「卒業式の少し前、それまでよりいじめが酷くなってきたの。その日もいじめられてた。殴られたり蹴られたりだけなら、まだ良い方で、その日はみんなの前で裸にもされた。恥ずかしくて本当に泣けたよ。でも、あそこにほうきの棒、入れられるとまでは思って無かった。知ってるでしょう、君だってこの事。みんな私の裸見て笑いながら眺めてた。あそこにほうき入れられた時、その笑い声が大きくなった。帰り道ね、泣きながら帰ったの。でもね、それまでにもたくさん泣かされてきたし、泣いてきたけど、その日の涙はいつもと違う気がした。帰り道、泣きながら歩いてたら、あそこから血が足に流れてきて、小学校の時からどんな酷い事されても逃げないでいた。逃げないでいた、、、のに、もう、耐えられなくなった。何かが私の中で切れた。

 本当に辛いって思った。血が足に着いててね、流れてきてね、このままでは家に帰れないって思って公園の水道で足を洗ってたの。そしたら、その公園に住んでる乞食のおじさんがそれを見てた。おじさん、泣きながら足に流れた血を洗う私を見て、'どうしたの、何で泣いてるの'って優しい声で言うの。他人に優しい声をかけてもらうの初めてって気がした。 

 おじさん、言うの。'おじさんは乞食だから、お腹が減ったとか寒いとか辛い事はあるけど、もう、悲しいって事は無くなっちゃった。涙は忘れたなあ。でも昔、会社で会社員してた頃は悲しい事もたくさんあったな、泣かないで話してみなよ。'って。

 私ね、私、私、その乞食のおじさんと、その日に公園でやっちゃった。立ったままの姿勢で。初めての男の人だった。それからもうどうでもよくなった。何でもよくなったって言うか、寝てる時、やってる時だけは男の人みんな、優しくしてくれるから。その優しさは一瞬だけだけど、多分、嘘なんだろうけど中毒みたいになっちゃって、、、麻薬みたい、、、誰とでも寝たよ、、、私、、、だから、、、。」

 僕は辛かった。聞いてる僕だって辛かった。女の子は僕に語りながら途中で泣き出してしまっていた。その涙、声は僕に響く。僕に届く。僕はもう、ここ十年以上、本当に悲しくて涙を流した事なんて無い。忘れてた。いつだって冷たい不良少年だった。感情が腐ってた。'泣く'なんて子供の頃に、もう忘れてきた。そんな、冷たい僕が今、泣いてしまいそうだ。