蝉日記。 人間の性善説。三十ハ!。

小学生の頃から甘ったれて、中学校から非行に走り、薬や盗みや暴力に、安逸な方向ばかりに逃げて生きてきた僕が初めてまともに働いた。

 朝、今まで起きたことのない時間に毎日起きて夕方過ぎまでしっかりと工場で働いた。その工場への就職でさえ父親の縁故で入れてもらえた工場だけど僕は今まで住んでいた裏社会と違う、新しい社会へと歩いていく躍動を感じたりした。

 ほとんど行かなかった保護観察の保護司の所にも顔を出してみたりした。初めての仕事はやはり辛かったけど、時間に縛られたり嫌な辛い事も少しあったけれど、不思議だ、格闘技選手とかが毎日毎日、人間らしい飲み喰いもできず、泣きたくなる様な練習をしながら、毎日毎日汗流して苦しい思いしながら厳しい練習して、頭の中で'こんな辛い事、もう、やめよう、明日はやめよう、明日からはやめよう、やめてやる、何て理由つけて言い訳してやめるか'って思いながらも、次の日になるとその明日になると、やはりまたやって来て練習して泣きたくなる様な練習を繰り返している。そうやって続けているうちに見えなかった事が見えてきて、それはその辛さがいつのまにか楽しさに変わってくるって事。この辛さがこの苦しさが練習が自分を強くしてくれる、一流の選手にしてくれる、未来を切り開いていってくれるって思えて、その辛さや苦しさが嬉しくさえなってくる。やった者だけに力はつく。努力も厳しさも苦にならなくなってくる。

 僕も似た感覚だった。辛い事も苦しい事も有るけれど、この辛さ、苦しさ越えるのが女の子との生活を作っていく、幸せを築いていくんだって思い始めたら辛さも楽しくなってきた。

 少年院に入る前、父親が嫌いだった。僕らが盗んでこれば一瞬で盗める金額の金を得る為に這いつくばって、這いつくばって働く姿を惨めに思った。でも、今、そんな事思ってた僕の方が惨めだったと気づかされる。世の中の会社員も工員も自営してる人もみんな、世の中の男、父親はみんな、好きな女や愛する妻や子供の生活の為に働いている。必死だ。這いつくばりもする。