蝉日記。 雨でも傘はささない二人。三十五!。

その後僕は女の子が風俗嬢して稼いだ金で買ったであろう豪華な布団の上で女の子を抱いた。辛い事を聞かされた後だったけど、女の子を抱いていたら、やはりこの女の子が好きでこの弱い女の子守ってやりたい、ずっと一緒にいたいって思った。この日、僕は女の子とやったんではなくて、寝たんではなく、そう、抱いたんだ、心からそう思った。

 許したくない風俗嬢してた事も、心のどこかに刺さってたけど、気持ちに女の子の事'汚れた'って思っていたに違いないけど、それを越えて好きって思えた。

 風俗嬢してた事は、もう考えない事にした。考えると辛いから逃げた。

 それでも不良少年と風俗嬢、こうして抱き合っていると負と負がくっついて、寒いと寒いがくっついて暖かくなるみたい、けっこう暖かかった。

 今日は辛かったけれど、いつかこの女の子の事、許せる、この女の子と幸せになれるかなって気がした。僕も女の子も初めて初めて幸福にふれた気がしたよ。

 新しい陽が昇って新しい朝がきた。僕と女の子だって新しくなれる。その日から僕と女の子は、もう、いつだって一緒にいることを誓いあった。

 僕達は新しい部屋を探し始めた。豪華すぎる部屋は、まだ大人になれていない二人には家賃を払っていけそうにないし、女の子が身体売った様な金で入居したその部屋に一日でも長く居るのは嫌な気がした。未成年の二人の部屋探しは本当に難しくて、社会の壁を知らされた気がした。でも僕も一生懸命だった。初めてふれた幸福のかけらとこの女の子を守りたくて、頭を下げた事のない両親に頭を下げて父親の名義で小さな部屋を借りてもらった。自分の力の無さと、昔、反抗したり馬鹿にしてた父親の本物の頼りがいを感じた。

 女の子にはあんな仕事はすぐに辞めさせた。僕だって今までまともな仕事した事ないけど働いた事ないけど頑張って働いて女の子守ってやる。女の子との生活作ってやる。築いてやる。こんな前向きな気持ちになったの本当に久しぶりだった。人は愛する人ができると変われるのかなって思って笑えた。

 部屋が決まって引っ越しの前日は、修学旅行の前日みたい、胸が高まって女の子の顔見つめて嬉しくなって、引っ越しの荷物まとめているのさえ楽しくなった。荷造りしながら歌うたったり、ふざけあったり、こんな楽しい時間、優しい一瞬があるのなら、何だ、生きてるのも良いなって思った。

 引っ越しの準備のたくさん出たがらくたの中に僕の目にとまる物があった。懐かしいにおいがした。甘い、優しい、抱かれる様な気持ちになる。