蝉日記。 終わりの雨。四十七!。

女の子は面会に来てくれていない。逮捕されて二十二日間が経って起訴されて、さらに二週間近くが過ぎているのに。

 僕は刑事にも面会に来た親にも、親がつけた僕の弁護士とか言うのにも、謝ったり反省の言葉言ったり、事件の事、裁判の方針とか一つも話さない。そんなの現在は考えられない。'女の子と連絡つけてくれ'それしか言わなかった。

 女の子は変わらずに面会に来なかった。誰も連絡がつかないと言った。僕はもう、駄目なのかな。僕と女の子はもう終わってしまうのか。あの日まで女の子と暮らしていた毎日、想い出の一つ一つは何だったのかな。嘘だったのか。

 僕は捨てられたんだ、と思いながらも、違う、何か理由があって来られないだけなんだ、僕と女の子の間には嘘も汚れも無かったって女の子を信じようとし、女の子を信じる自分と信じない自分が戦っていた。

 そのうちに拘置所に移された。裁判が始まる。だけどそんなのどうでもよい。裁判は長くなると言われた。僕が'刺した'と言う事は認めていても他は何も話さなかったから。そしてあの冴えない男も何も話さなくて、被害者としての立場なのに完全黙秘だったらしい。あいつは被害者としてだけど、検事とかには、刺されたと言う事は認めていても、動機、そこに至る過程、その他の全てを黙している事は、加害者である僕に非行歴も少年院出という事もあり、その少年院収容歴のある被告人が怖くて何も話さないと理由付けされたらしい。逆に全てを黙している僕は、反省の色も無い、という事で裁判は進んでいく。

 そして話しは非行歴、少年院収容歴のある被告人が何も非行歴も犯罪歴も無い一般人の一市民の被害者を刺し、被害者は非の無いのに黙しているのは、被告人を恐れ、心因的なものが、とか言って、どうでも良いけど、検事の思う話しの、作り通しの話しのまま裁判は進んでいった。

 僕にとっては、もう、そんなのどうでもよく、拘置所の独居房で女の子が来てくれるのを待った。本当に待った。待ち焦がれた。

 手紙も出した。でも返事は来ない。それでも返事が来ないって事は届いているんだって信じたりした。宛先人不明で戻ってくるよりは安心できた。

 時には女の子の事、恨んだりした。面会に来てくれない事裏切りだって思った。憎みそうになってしまった。

蝉日記。 躓いた二人。四十六!。

駅の階段に十時前から僕は居た。そんなに人通りも無い。夜空には星が見える。光ってる。そう言えば遠く夜空に光り輝いているあの星だって、近づいてみればただの土の塊りだって言ってたな、決めつけてたな、僕は。そうやって何でも泥だって決めつけて生きてきたんだなって考えた。

 でもそんな僕が初めて泥だって決めつけないでいた存在と暮らしがあったのになとも思った。

 一台の自転車が近づいて来た。太った男が乗っている。階段の前で止まる。'やはり来てくれたか、こいつだろうな。来てくれたって事はこいつもまだ、ましな男だ'なんて考えた。

 冴えない男だった。良い所、探せない程。

 「来たんだな。」僕が声をかけても階段の下から返事もしない。自転車から降りようともしないで僕を見上げてる。「近くに座れよ、話そか。」言ってやったのにまだ僕を無言で見上げてる。僕は仕方なく言った。

 「お前、何だって嫌がらせばかりしてくるんだ。言いたい事があるならはっきり言えよ。俺にだけの攻撃ならまだしも、あいつにはやめてやってくれよ。言いたい事あるなら俺にだけ言えよ。」

 「君は、あの子を愛してるのか、、、本当に、、、。」初めて聞いたこいつの声。

 「好きだよ。愛してるよ。好きで愛してるから一緒に暮らしてんだよ。お前も好きなのか、だけど俺が幸せにするから、必ずするから、もうどっか行っちゃえよ。嫌がらせもやめろよ。」

 「僕は君に負けないくらいあの子が好きなんだ。愛してる。君はあの子の過去も知ってるのか。知った上で愛せてるのか。汚れた事も汚れた過去も、風俗嬢してて、何人も何人もの男におもちゃにされてきた事も全て飲み込んで愛せるのか。僕はできるんだ。」

 「昔の事は知ってるよ。知った上で暮らしてるよ。でもお前、間違ってるよ。あいつは汚れて無い。そんなこと、汚れたって言うお前、もう消えちゃえよ。どっか行って二度と嫌がらせもするな、本当にあいつの事愛してるなら。」 

 「うるさいよ。君は他人に蹴られた事もいじめられた事も無いだろ。僕とあの子は同じ痛みを知っているんだ。共通の悲しみを持ってんだ。今までの人生、何の痛みも泣くことも知らずに生きてきたお前に何であの子を幸せにできる、あの子の傷を何で知ってやれる、あの子は僕の初めての女の子だ。お前にはわたさない。」

 ゆっくりと見えた。本当は素早い動きだったはずなのに止まっているかの様に一つ一つの動作がゆっくりと見えた。冴えない男は、慣れない手つきで刃物を取り出すと僕に向かって来た。僕は冷静だった。恐怖も感じない。ただ乾いた気持ちになった。冴えない男の、多分、人生で初めて他人を傷つけようとした渾身の一撃で少し腕を傷つけられ血を流した。その少しだけ流れた血が、無力な冴えない男の一生懸命で哀しく乾いた気持ちになる。

 冴えない男のその腕をねじり上げ、手から刃物を取り上げた。そして、何で、そんな行動をしたのか自分でも解らない。説明できない。刺してしまっていた。

 あんなに嫌っていた鉄格子、不思議だ、懐かしいにおいがした。警察署での取り調べ、僕はもう面倒くさくて、ただ、'刺した'としか供述しなかった。動機とかそんなの、自分でも説明できないよ、ただ「もう何も聞くな。刺した事は認める。刑務所でもどこへでも行くよ。だから女の子に連絡してくれ、女の子を呼んでくれ。」と繰り返していた。喚いていた。

 二十二日間の取り調べが終わり、傷害で起訴となり、一応、刺した事は認めているからか接見禁止とか言うのも取れて外の者と面会とかができる様になった。僕は女の子を呼んでくれ、連絡してくれと繰り返していた。女の子は、親とか面会に来た人に頼んでいるのに誰も連絡が取れないと言う。携帯電話も通じず家にも居ないという。僕の所に面会も一度も来ないし手紙も無い。僕は訳が解らなかった。見捨てられたのかと女の子を恨んだりもした。女の子の事以外、鉄格子の中、全ての事に興味が無かった。あの冴えない男が命は助かったとか、これからどうなって何年くらい刑務所行くんだろうとか、裁判の事とかどうでもよかった。女の子と会いたくて、ただ、それだけだった。

蝉日記。 人を愛す痛み。四十五!。

人間の諦める力、慣れって怖い。でもそれがあるから生きていられるのかもしれないけれど。

 無言電話やそんな嫌がらせが気にならなくなりだした頃に女の子は言った。「あのね、、、話しがあるの。」僕はその口調だけで嫌な予感がした。

 「色んな嫌がらせ、あるよね。多分、、、私の知ってる人間なの、、、。」

 その先を聞くのが辛い気がする。でも、聞かなくてはいけない。

 「どんな、、、。」それしか言葉が返せない。

 「怒らないでね、怒らないで聞いて。君と一緒に住む前の話しだから、、、。君が少年院に入っている頃の事の、、、。」

 嫌なことは聞きたくない。だけど、、、聞かなきゃね。「良いから、、、言ってよ。続きを。」できる限りの冷静な表情で、顔で言ってみる。

 「うん、その人ね、私と同じ様にいじめられっ子だったみたいなの。見た目とかは君の方がずっと良いよ。その人ね、すごく太ってて変な黒ぶちの眼鏡までしてて。引き篭もりで、、、おたく、みたいな人。」

 「そんなのとどうやって知り合ったんだよ。」僕の言い方が少しきつくなる。

 「あのね、、、。」言いにくそうな女の子。 

 「はっきり言ってよ。大切な事だろ。」

 「うん、風俗の店に居た頃の客だった人なの。その人、年齢は私らより二つくらい上で、その日、初めて風俗の店きて。」

 「それで。」僕は聞いてて辛くなってきたけど、痛かったけど聞いてしまう。

 「私がその人について、、、色んな話ししてたら、その人小学校、中学校とずっといじめられてたって話してくれて、それで高校も行かず登校拒否からそのまま引き篭もりになって、今日初めて風俗の店来たって言ってて、、、。」女の子はまた繰り返してる。

 「ずっといじめられてたんだって。その人はね、家が貧乏なのにその人は太ってて、理由もこじつけられていじめられてたみたい。私、ずっとその話し聞いてて、、、。」

 'ずっといじめられてて'そればかりを'その人もいじめられてて'そればかりを繰り返し強く言う女の子。哀しい。僕は言う。「だから同情したって言うのかよ。」

 「私もね、いじめられてたんだ、ずっと。って話しをしてたら気があって、、、それから店の外で何回か会う様になって、、、。」女の子は下を向いて話している。「色んな話しもしたの。多くはいじめの話しなんだけど。」僕の方を全く見ないで話しだけしてる。「同情って言われれば、そうだったかもしれない。同情も確かにしたし、されたし。傷を舐め合ってた。でもね、その人には君に話した私の初体験の話しとか、色んな男と寝てた事とかそんな話しはしてない。

 いじめの話しばかり、、、お互いの、、、。でもね、その人も君と似たような事言ってたよ。風俗嬢はやめてくれって。何回も言われた。何か、それを'大切にされてる'って錯覚して嬉しくなっちゃった。店はやめはしなかったけど。」

 僕は声を絞り出すよ。「それで、、、。」

 女の子が続ける。「それで、、、ごめんね、、、ごめんなさい。」

 「わかったよ。もう解ったよ。でも本当にそいつなのか。」

 「うん、多分、、、。」

 僕はさぼてんの花を、そして蝉の声を、見て、聞いている様だった。僕は、僕は、、、強くなんか無かった。

 その夜の無言電話を僕は取った。

 「、、、。」やはり無言電話だった。僕は言った。「もう解ったよ、お前のこと。あいつから聞いたよ。何が言いたいんだ、何がしたいんだ、何を伝えたいんだ、言えよ。」

 「、、、。」やはり無言で何も返してこない。僕は言った。「一度、会うか。こんな事繰り返していても仕方ないだろ。来いよ。明日。駅の前の階段で。夜、十時。必ず行くから。」

 「、、、。」

 相手はまだ無言。電話を切った。女の子は目を合わせようとしない。

 

 

 

 

蝉日記。 壊れる。四十四!。

時には無言電話を取ると「はい、ご苦労様、よく続くね。」とからかってやったりもしたけど、それでも相手はしつこくかけてきた。僕は不良少年だった自分の過去で、他人に恨まれることは数え切れ無いくらい思いあたるし、これは女の子の方ではなくて僕に対する嫌がらせだって可能性の方が高いって考えた。'誰だ'頭の中で恨まれてる可能性のあるやつを思いうかべていくと何十人にも思いあたる。

 一応、女の子にも「心あたりある。」と聞いてみたけれど「よくわかんない。」と小さな声で答えただけだった。

 嫌がらせは無言電話にとどまらなくなってきた。仕事から帰ってきて女の子との二人の晩ごはんを食べている時に女の子が突然に言った。「あのね、今日誰かにつけられてたの、、、。」 

 僕は一瞬で怒りが最高値になった。たかが無言電話や僕自身に対する危害なら受けて立ってやるけど僕の中で絶対に守らなければならない、絶対に手を出されたくない女の子、もう、話しの重要さが変わってくる。僕はそれでも何とか、すぐに自分を取り戻して冷静になってその言葉の意味を理解した。

 「つけられてるって、、、確かなの。」

 こうして聞くだけで僕は怒りが再度込み上げてくる。女の子は僕の宝物だ。初めて掴んだ大切な者だ。僕に対する嫌がらせ、攻撃ならまだ許せる。だけど女の子は僕の'聖域'で、その聖域に土足で踏み込まれた気がして怒りが込み上げてくる。

 「確かなのか、誰かにつけられてるって。誰なんだ、心あたり無いのか。何かされたりしてないよね、何もされなかったんだろ、大丈夫だろ、、、。」僕は落ち着きの無い声で矢継ぎ早にきく。女の子は静かにゆっくりと頷きながら、「大丈夫だよ、何もされてない。ただね、仕事先の喫茶店からね、いつもみたいに帰ろうとしたら、帰ろうとしたら私の自転車の車輪に知らない鍵が勝手にかけてあったの。仕方無いから自転車置いて歩いて帰ってきたんだけど、誰かが少し後ろからつけてくるの。なんか怖くなってきて、それでも時どき振り返るんだけど私が振り返るとすぐ電柱とかに隠れちゃう。私も怖くて、あまり振り返れなくなってとにかく早く家に帰らなきゃって急いで帰ってきたから。」

 「それで心あたりあるのか。」僕は聞いた。「うん、わからない。」小さな声で女の子は言った。

蝉日記。予定された雨。四十三!。

その頃になると少しだけれど二人の貯金ができたり、部屋の中に家具が増えたり電話も引いたりして、何か二人とも大人になったんだなって笑いあっていた。僕は幸せだった。

 だけどそんな幸せも壊れる時がやってくる。僕は、そして女の子もやはりついていない種類なのかな。

 僕達を壊していったのは一本の無言電話から始まった。明日も仕事を抱えて寝ていた真夜中の三時、一番最初の無言電話がきた。僕と女の子ね携帯電話の方ではなく家の固定電話の方にだった。女の子も僕も熟睡してた時にいきなりの電話の音が鳴り響いたから驚いたけど、明日も仕事だしって思って無視して電話を取らないでいた。いつか切れるだろうって思って。だけどその電話の音は鳴り止まない。親とかからの大事な電話かと思った時に無視していられなくなり、僕は女の子に「電話に出てよ、、、。」力無い声で言うと、女の子は仕方なくって感じで電話を取りに起き上がった。

 すぐに戻ってきた女の子に「誰から。」ときいてみると「無言電話。取ってもね、何も言わないの。」て答えてきた。

 その日はそれで寝た。だけどその日を境に僕と女の子への攻撃が始まった。無言電話は毎日かかってくる様になった。しかも真夜中に。回数だって増えてくる。相手も調子に乗ってるのか、一晩に十回以上もかかる様になった。もう、電話番号を変えてしまうか、電話線を引き抜こうと思ったけど親とかから急な連絡入ったり親とかに何で番号を変えたとか説明することを考えると、やっと最近僕に対して安心している親に余分な事は言えなかった。電話を音無しにしておけば良いのだけど、実は僕の中にこの毎日無言電話をかけてくるやつを捕まえたい、何で僕と女の子の築き始めた幸せを壊すのか、捕まえて殴ってやりたい気持ちもあった。そのためのたった一つの手掛かりと相手につながるのがこの無言電話だったから思い切って電話番号を変えたり音無しにしたり出来なかった。

 何も出来ず、無言電話のかかる度に、無言の相手に「良い加減で止めんと殺すぞ。」とか怒鳴ったりしても、相手は変わらず無言だったしこっちは一人で怒っているみたいで馬鹿にされた気になる。

蝉日記。 永遠の課題、人。四十二!。

この女の子を守り、女の子との生活を作るために働いて、いつかこの女の子との子供ができて、その子供は可愛いだろうな。

 その子供を育てる為に食わせる為に毎日毎日、家と職場を往復して、そうやって女の子と子供と一緒に暮らしていって一緒に年齢を重ねていって、いつか老いて、でも子は成長していつか子供が大学とかも行く様になって、その間の毎日には小さな笑い、小さな楽しみ、小さな幸福、小さな悲しみ、小さな涙とかもあったりするんだろうけど、子供育てて女の子と一緒に、ずっと一緒に、一生涯いて、そしていつか死んでいくけれど、そうした平凡な人生で良い。そして、その平凡な人生を築く事がどれだけ大変で、でもそれがすごく大切で輝いていると感じる。

 これからも何十年も毎日、仕事をしなくてはいけないけれど、女の子との毎日を作っていくんだからそれも良いって思える僕がいる。

 毎日、仕事して家に帰って女の子と笑ったり抱き合ったりする。その生活がとても輝いて大切におもえた。もう不良としての牙も覇気も無い。そんなものいらないって思った。こんなのは初めての気持ちだった。

 女の子と僕の小さなお城での生活も一年を過ぎていた。小さな喧嘩もしたし、不貞腐れて口もきかない時もあったけれど、それでもそういうのも含めて僕と女の子の思い出の量は増えていった。そんな喧嘩だって後になれば楽しい思い出だって笑えた。

 女の子を何度も何度も何度も抱いた。ある瞬間に'この女の子を抱いたやつはこの街中に何人もいるんだ、、、数え切れないくらいの男が、、、。'って思えて気が沈んだり壁に物をぶつけたりした時もあったけどその気持ちだけは絶対に口にしていない。言葉にしていない。顔にも出さないようにした。過去のこと言うのは、責めるのは、嫉妬するのは卑怯だし。

 それでも楽しい事だってたくさんあった。二人で色んな所に遊びにも行った。子供みたい遊園地行ったり、夏祭りとかに行って、何がおもしろいって訳じゃないけど、二人なら楽しかった。不思議、二人ならどこへ行っても思い出になった。僕と女の子はそうやって日を重ねて、毎日を築いて、いつしか二人とも二十歳になっていた。

蝉日記。 だから生きる。四十一!。

だけど、それ以外の世の中の多くの人は給料袋に這いつくばってでも愛する女や子供、家族の為、守る為、自分が生きていく為にも、夢とか憧れを追いかける余裕も無いし追いかけたいのを我慢して捩じ伏せて捨てて生きていく。

 道に乗せられているかもしれない、道を決められているかもしれない、それも解っている。解っているんだ。でも、そんな道に騙されたって乗せられたって解っていても、黙ってその道を歩いているその他多勢って呼ばれてしまう人達、そう言う人達を、よく見てみれば、本当はすごく光り輝いていないか。

 僕は昔、笑っていた。もしかしたらそんな人達の事を'諦めた人'って心無い時の僕は笑っていたし、今も笑っているやつらがいるかもしれないけれど、でもそう言う多くの人達のおかげでこの社会も街も成り立っているのかもしれない。決して自分の意志が無いんではない。守る人達がいるから言わないんだって、そう言う人達。

 そっちの方が本当の勇気かもしれない。

 僕は夢を見たい。探したいって焦っていた時期がある。夢を失くし、その多くの時間、人生をその他多勢みたいな生き方したくない、選ばれた人間に自分もなりたいって思っていた時期がある。努力はしないくせに。

 だけど今、解った。父親や母親も含めて自分が笑っていた人達、生徒達の事も解った。僕は、もう、夢とか憧れなんか無くても良い。無くても生きていける。もっと大切な夢や憧れよりも守らなければいけないものができたから。

 もう、選ばれた人間になりたいとか人と違った生き方したいとか思わない。生きる事に追われているとか、生活に追われているとか、好きな女ができて去勢されたとか、牙を無くしたとか言って笑いたいやつは笑えば良い。そいつらは大切なもの、守らねばならないもの、まだ持っていないだけだ。

 もうこのまま、女の子さえ居てくれれば良い。