蝉日記。 壊れる。四十四!。

時には無言電話を取ると「はい、ご苦労様、よく続くね。」とからかってやったりもしたけど、それでも相手はしつこくかけてきた。僕は不良少年だった自分の過去で、他人に恨まれることは数え切れ無いくらい思いあたるし、これは女の子の方ではなくて僕に対する嫌がらせだって可能性の方が高いって考えた。'誰だ'頭の中で恨まれてる可能性のあるやつを思いうかべていくと何十人にも思いあたる。

 一応、女の子にも「心あたりある。」と聞いてみたけれど「よくわかんない。」と小さな声で答えただけだった。

 嫌がらせは無言電話にとどまらなくなってきた。仕事から帰ってきて女の子との二人の晩ごはんを食べている時に女の子が突然に言った。「あのね、今日誰かにつけられてたの、、、。」 

 僕は一瞬で怒りが最高値になった。たかが無言電話や僕自身に対する危害なら受けて立ってやるけど僕の中で絶対に守らなければならない、絶対に手を出されたくない女の子、もう、話しの重要さが変わってくる。僕はそれでも何とか、すぐに自分を取り戻して冷静になってその言葉の意味を理解した。

 「つけられてるって、、、確かなの。」

 こうして聞くだけで僕は怒りが再度込み上げてくる。女の子は僕の宝物だ。初めて掴んだ大切な者だ。僕に対する嫌がらせ、攻撃ならまだ許せる。だけど女の子は僕の'聖域'で、その聖域に土足で踏み込まれた気がして怒りが込み上げてくる。

 「確かなのか、誰かにつけられてるって。誰なんだ、心あたり無いのか。何かされたりしてないよね、何もされなかったんだろ、大丈夫だろ、、、。」僕は落ち着きの無い声で矢継ぎ早にきく。女の子は静かにゆっくりと頷きながら、「大丈夫だよ、何もされてない。ただね、仕事先の喫茶店からね、いつもみたいに帰ろうとしたら、帰ろうとしたら私の自転車の車輪に知らない鍵が勝手にかけてあったの。仕方無いから自転車置いて歩いて帰ってきたんだけど、誰かが少し後ろからつけてくるの。なんか怖くなってきて、それでも時どき振り返るんだけど私が振り返るとすぐ電柱とかに隠れちゃう。私も怖くて、あまり振り返れなくなってとにかく早く家に帰らなきゃって急いで帰ってきたから。」

 「それで心あたりあるのか。」僕は聞いた。「うん、わからない。」小さな声で女の子は言った。